この恋、きみ色に染めたなら
『…紗希』
『あ、私、やっぱり帰ります!
この映画、紗季さんに見せたかったって言ってましたよね、もう紗季さんと見てください…!』
先輩の言葉を遮り、前髪から手を退かし、精一杯の笑顔を先輩に向けた。
先輩はそんな私に何か言いたそうな顔をしていたけど、唇をギュッと結び、そのまま黙ってしまった。
『………じゃ……楽しんできて下さい。
きっと紗季さんも先輩の隣で見て………』
そこまで言ったところで私は腕を引かれ、本当に一瞬の出来事ー…
腕を引かれたかと思えば、私は先輩の胸に抱きしめられていたー…
なんで……?
どうして……?
先輩のこの行動の意味も、先輩が何を考えているのかも分からない…
分かんないよ……先輩………。
『……紗季はもういない…。
俺が触れられるのは、紗希だ…』
先輩はそう言って、きつく私の体を抱きしめる。
先輩の言葉の意味も分からないー……
先輩はどうしたいの……?
突き放そうとするくせに、“俺を落として”とか言うし…
簡単に突き放すくせに、抱きしめてくるし………
『………先輩………分かんないよ………。
先輩の考えてることも……あの言葉の意味も、この行動の意味も……。
どうしていいか分かんない……先輩、教えてよ……。
私、まだ先輩のこと……好きでいてもいいの……?それとも……やっぱり迷惑だから諦めた方がいいの……?』
『………紗希。
俺、お前を突き離せばいいのか、お前を受け入れていいのか……分からない。』
先輩がそんなんじゃ、私はもっと分からないよ……
でも先輩の胸に押しつぶされそうな顔をなんとか上げると、そこには先輩が本当に苦しそうな顔をしているのが見えて……