この恋、きみ色に染めたなら
『先輩だってあの映画の内容、知ってたんでしょ?
つまり、その幼馴染の紗季さんが亡くなった時の自分の想いと酷似してることは知ってた、あの映画を見ればあの時の事を思い出しちゃうかもしれないって。
けど、先輩はあの映画を観に行った。
私だったら、行けないな……多分。』
凪はそう言って、自分の椅子に腰かけた。
二人の高さが椅子に座ったことで同じ位置になる。
『……紗季さんもあの映画の原作、ずっと読んでたんだって。
先輩も毎回聞かされてたらしくて……それで映画化になった。
だから紗季さんが見れない分、自分が見てあげようと思ったみたいだよ…』
だから、どんな苦しい場面でも。
どんな悲しい場面でも、先輩は目を反らすことはなかった。
紗季さんの為だからー…
私は机の上で頬杖をつき、窓の方に視線を向けた。
『……ふーん。それで紗希はどうすんの?』
凪の言葉に私は視線を凪に戻し、凪を見つめる。
『先輩は紗季さんのこと、忘れないんでしょう?
忘れちゃいけないって……その言い方が引っかかるけど…』
『引っかかる…?』
『いや、普通に紗季さんを想ってるだけなら、“忘れられない”とか“忘れない”って言わない?
そこをあえてなのか知らないけど“忘れちゃいけない”って言い方は、まるで忘れることをしちゃいけないって言ってる様に聞こえない…?』
忘れられないでも、
忘れないでも、なく。
忘れちゃいけない…
『なんか義務…みたいな感じに聞こえる』
凪の言葉に不意に過る、昨日の先輩の言葉ー…
“俺、お前を突き放せばいいのか、お前を受け入れていいのか、分からない”
あれは一体…どういう意味で言ったんだろうー…