この恋、きみ色に染めたなら
『……え……あの……』
戸惑う私の腕を掴み、そのまま私の腕を引き、椅子から立たせる。
『あ、拒否なしでお願いします。
どうしても紗希ちゃんに頼みたいことがあって来たから、ここで拒否されると困るんだ』
先輩はそう言って、ニコリと微笑む。
甘い、甘い、その笑顔に私の胸が小さくドキッと鳴った気がするー…
『ちょっと紗希ちゃん借りていきます』
山科先輩はそう言うと、私の返事を聞く間もなく手を引き、教室からあっという間に離れていく。
『……あ、あの……!』
私はどんどん歩いていく山科先輩の背中に声をかける。
すると先輩は私の声に気が付き、その場で立ち止まり、くるりと体を回転させた。
『…歩くの早かった?
ごめんね、紗希ちゃんのペースも考えないで』
山科先輩はそう言うなり、またもやニコッと微笑む。
『……あ……いえ……』
山科先輩はすぐに笑顔を見せてくるから怒る感情がどこか遠くに飛んで行ってしまう。
突然来て、突然連れ去られて…訳が分からない。
けれど一つだけ確実に言えることは、山科先輩と別れて教室に戻った時、成田先輩の時同様に冷たい目で見られること、これだけは確実だ。