この恋、きみ色に染めたなら





山科先輩の言葉にズキって胸が痛む。





そんな私の胸の内なんて気付かずに、山科先輩は“じゃ、明日”と言って友達と歩いて行ってしまった。











『ねぇ、紗希。

 なんで今日からにしなかったの?』





山科先輩の背中を見つめる私に凪が問いかけてくる。









『……今日は美術室に行こうと思うの。

 特に約束してる訳じゃないんだけど……』








『……紗希、本気で成田先輩の事、好きなんだ…』








凪に言われなくても、先輩への想いは私が一番知ってる。




だから放課後の時間だけでも先輩に会いたいー…










『でもさ……さっきの山科先輩を見てると、紗希のこと、本気で好きなんだなって思う。

 そういうのを見てるとさ……引き摺ってる恋をしている成田先輩よりも、紗希を想ってくれてる山科先輩の方が紗希は幸せになれる気がするな…』








『………え……?』







『だってさ……忘れられない人がいる人を好きになるって、片想いの頃も苦しいけど。

 両想いになってからも続く気がしない?』






『両想いになってからも……?』







『些細なことでまだあの人のこと好きなのかな、とか不安になったり。

 忘れられなかった人と自分のこと、どっちが好きだったか、とか思ったり、疑ったりしそう…

 ………って、あ、ごめん!』






凪は“しまった”という顔で私を見つめ、そう謝ってくる。







でも凪の言うこと、私も分かるー…





ただ単純に私を好きだと言ってくれている人は、本当に私のことを好きなのかもって思えるけど。




忘れられない人がいる人は……振り向いてくれても、私とその人、どっちの方が好きとか、その人がいないから百歩譲って私なの…とかー…





そんなの聞いたって迷惑がられることばかり、気になってしまいそう……










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