この恋、きみ色に染めたなら
『…………忘れられない奴はいるよ、ずっと。
けど、紗希と向き合おうっていう気持ちに嘘も冗談もねーよ…』
聞きなれた、この声ー……
私と同じことを思ったのか、山科先輩も声のした方、美術室の扉の方へと視線を向けた。
そこには声の持ち主、成田先輩が立っていた。
『元彼といい、サッカー部の男といい、立て続けに俺を揺さぶんなよ』
先輩はそう言うと、静かに美術室の中に入り、そして私の所まで歩いてきた。
私のところまで来て、私の耳に当てた手を掴み、その手を下させる。
そして山科先輩に視線を向けると、
『なぁ、俺がなんて言ったら、お前は紗希を諦める?』
先輩は抑揚のない声で、そう問いかけたー…
『……なんすか、それ。
俺は成田先輩に何を言われても紗希ちゃんのことは諦めませんよ?
そんな簡単に諦められるような簡単な想いじゃないんで』
山科先輩は攻撃的な目で先輩を見つめるも、先輩はそんな山科先輩を静かに見つめる。
『俺も簡単な想いで紗希にさっきの言葉を言った訳じゃない』
『……さっきの言葉……?』
『紗希を好きになるって、言葉』