この恋、きみ色に染めたなら
『ご注文が決まりましたら、お呼びください』
案内を終えた真理子さんはそれだけ言い、そのまま席を離れていく。
真理子さん……どんな風に思ってるかな……
そればかりを気にかけてしまう私に山科先輩はメニュー表を差し出す。
『紗希ちゃんがこのお店に来たことあるなんて思わなかったな。
俺はたまたま部活帰りに部員の奴らとここで飲んだのがきっかけで、結構通ってるんだよねー。
俺はね、ここのガトーショコラがお薦めだよ。
男の俺でも全然食べれるケーキなんだけど………』
山科先輩の言葉がそこで止まる。
言葉が止まった、それは私の顔を見て、だと思う。
“ガトーショコラがお薦めだよ”の言葉に、成田先輩とここへ初めて来た時のことを思い出す。
確かあの時の私はチーズケーキと苺のショートケーキで迷ってて……
そんな時に“ガトーショコラ”ってぶっきらぼうな言い方でお薦めしてくれたっけ……
勝手にガトーショコラの紅茶セットなんて頼んじゃって……
でも、ガトーショコラに、私の悩んでいたチーズケーキと苺のショートケーキを小さいサイズで添えてくれて………
あぁ……私は成田先輩じゃない人と来ていても、成田先輩のことを思い出しちゃうんだな………
『……紗希ちゃん…?』
その声にハッとして顔を上げると、山科先輩が覗き込むようにしながら私を見つめていて…
『……え……?』
『なんか一人の世界に入り込んでたけど……?』
『……ごめんなさい………なんかここでの想い出がふと出てきて……』
と、言ったところで私は口を閉じる。