晴天のへきれき?
室井さんは溜め息をつくと私の手を取り、逆の道に向かって歩きだした。


「……帰りたいなら帰りたいで言え。送るから」

「はい」

「気がついたら、高瀬さんが木村さんに睨まれているし。お前はいないし……」


高瀬が睨まれてた?


「あの温厚な木村に?」

「よく解らないが」

室井さんはスタスタ歩くので、小走りになりながら大通りに出る。

車の走っていない道路を眺め、それから小走りの私を見下ろして、歩調を緩めてくれた。

「悪い」

「いいえ」

それからゆっくりと、明るくなって来た空を見上げる。

「もう少し行かないと、タクシーはいないと思う」

ぶっきらぼうに言われて、顔を上げる。

冷たくはないけど、いつも通りの無表情。

迷った末に聞いてみた。


「怒ってますか?」

「いいや」

「イライラしてます?」

「全然」


じゃあ……


「落ち込んでいる?」


ピタリと足が止まった。


室井さんは私を見下ろし。

視線が合うと、外された。


「また高瀬さんか……」


小さな呟きに、頷いた。


「私、何かしましたか?」

「朝倉には関係ない」

「でも……高瀬が」

「高瀬さんは俺じゃない」

「でも……」


室井さんは、断固とした視線で私を見た。


「お前と俺は単なる同僚だろう? だから、関係ないと言っている」



心臓が



止まった気がした。
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