晴天のへきれき?
そんな訳で『蔵』に来たわけなんだけど。


「…………」


ガラガラと戸を開けて、暖簾もくぐっちゃった後で固まった。



とても、

とてもまわれ右! ってしたいけど。

「あら~。いらっしゃい皐月ちゃん」

なんて、ママに声をかけられ、振り返った目と合っちゃったら動けない。


「こんばんは」

よく通る、低い声。


「こ、こんばんは」

……諦めよう。

後ろ手で戸を閉めて、室井さんの座るカウンター席に向かう。


「ママ。まだヒゲそらないの?」

「あんたも、何度言うつもりよ」


何度でもですよー。

「注文は?」

「泡盛をお願い」

「あら。飲んで来たんじゃないの? 飛ばすわね」

座りながら頷く。

「今日は酔っ払って寝るつもり」

バックを隣の空席に置き、煙草を取り出したところで室井さんと目が合った。


「何かあったのか」

「どうしてですか?」

煙草に火をつけ、思い切り吸い込む。

「酔い潰れたい、と言ってるも同然じゃないか」

「別に、いいじゃないですか。たまにはそういう事もあります」

「最近、笑わない」

「忙しかったから」

「そうじゃないと思う」


イライラした。
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