晴天のへきれき?
「室井さん」

お酒を飲んでから微笑んだ。

「私、こう見えて箱入り娘なんですよ?」

唐突に話題を変えると、ちょっとだけ眉を上げられた。

「私が8歳の頃に親が離婚して、最初の数年は、それこそ修学旅行にもいけないくらい苦労して」

お金なかったし、生活力の無さはそれはもう大変で。

もちろん旅費の積み立てもできなかったし。

「でも、うちの母はけっこう名家の出で、結局そっちに世話になることになりましてね」

「ああ」

「つまり、一般常識とか礼儀作法とか、そんなものは母の実家で覚えて育ったんです」

言ってから腕を組む。

「じい様厳格だったし。友達なんかも選ばれたりですね。でも、世話になってるって感じで従うしかなかったし」

頷いて、室井さんを見る。

「自由になったのは、社会に出てからなんですよね」

「そう……なのか?」

「はい。まぁ、だから表面上のおつき合いは得意なんですが。感情面は、私……本だとか、情操教育で見に行った能で覚えたようなものなんです」


ふっと苦笑。


「思えば教材が〝能〟て凄いですけど……能って、けっこう深いです。そして大概は悲恋なんですよね」


喜劇は少ない。

人間の微妙な、モノを現す芸能。

だから、好き。

家庭にあったものは、夢物語でもなんでもない。

ただの現実だったから。
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