晴天のへきれき?
「また逃げ出そうとしただろう、お前」

室井さんは、自動ドアの柱にもたれながら腕を組む。

無表情ながらも厳しい声音に、視線を下げた。

「は、早かったですね」

「丁度よく、あそこのトラックの影に車を停めていた」

視線を上げると大きなトラックが動き、何となく見覚えのある車が見える。

「なんで……こんな早朝に車でなんかで」

「当然、お前を捜してたに決まっている」


当然……って。


当然なのかなぁ?


「前日抱き合った女が、起きたら居なかった。ってのは、心配する動機としては薄いか?」


パッと顔を上げると、目を細めた室井さんの、その無表情が見えた。


「わ、忘れてください!」

「悪いが、男としては忘れられない出来事でね」

室井さんはちらっと店内を見て、それから私を見た。

店内では朝の品出しなのか、エプロン姿の女性が集まって、こちらをチラチラ見ている。


「ここでは話にならない。場所を移そう」

「ど、どこに……」

「……俺の部屋、とか?」


それは嫌!


「嫌なら車でもいい。とにかく、人に聞かれない方がいいと思うが」


それはそうかもしれないけれど……


言われて、手を差し延べられる。


「…………」


その手に、

私は自分の手を重ねた。
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