晴天のへきれき?
「俺はいい仕切りって訳だな」

少し憮然とするチーフにクスクス笑いながら、人の少ない通りで立ち止まる。

目の前には、濃紺の暖簾に白字の『蔵』の文字。

看板は何もない、一見すると古い蕎麦屋のようにも見える。

「……ここのマスターは、ママですから、気をつけて下さいね?」

「マスターはママ?」

「きっと見れば解ります」

引き戸を開けて暖簾をくぐる。

「いらっしゃぁい」

妙になまめかしい、ハスキーボイスに出迎えられて微笑んだ。

「あら。皐月ちゃん、ご無沙汰じゃなぁい?」

って、声をかけてくれたのはチエママ。

スッキリしたデザインの白のワンピースに、ショートカットの綺麗な栗色の髪。

お化粧は、夜の装いらしく少し濃いめ。

いつ見ても綺麗なんだけど……。


「まだヒゲ剃らない訳?」

後ろで、チーフが固まっている。

「口を開くなり失礼ね!」

口髭を押さえて、ママは眉を吊り上げる。

「あらぁ。いい男。紹介してぇ」

ママはチーフに気付いて、カウンターから身を乗り出した。
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