鬼伐桃史譚 英桃
第一章~動き出す運命の輪
第一話・時は経ち
大鬼が現れ、ひとりの男がこの世を去ってから十六年という歳月が流れようとしていた。
京の都には大きな城があり、蘇芳 元近(すおう もとちか)はその主人だった。
彼は帝から一国を任された殿様でありながら、自惚(うぬぼ)れはなく、武士や百姓など、わけ隔(へだ)てなく、人びとと接する心をもった、たいそう物わかりの良い主人だった。
その元近には、美しい正妻と娘がふたりがいた。
蘇芳の城はいつも賑々(にぎにぎ)しい。それというのも、十六年前、大鬼が出現して以来、蘇芳家ではとある慣(なら)わしがあり、今日もそれがはじまるからである。
城の中にある広い庭の前に男たちはいた。彼らは皆、逞(たくま)しい体つきをしており、その足元には米俵が置かれている。
慣わしとはまさにこのことで、男たちは米俵を持ち、どれほど力があるかを競うものであった。
どんどん、どこどこ。
腹の底が震える勇ましい太鼓の音がはじまりの刻を知らせる。