鬼伐桃史譚 英桃
しかし、梅姚は違った。
「そうでしょうか。私には力に溺(おぼ)れた野心家としか思えませんが」
梅姚は笑みもこぼすことなくそう言うと、その場に背を向ける。
無惨な梅姚の言葉を耳にした梧桐の体は、冷たく凍りつく。
それというのも実はこの梧桐、一の姫である梅姚に心奪われていた。その姫に否定されたのだ。固まるのは無理はない。梧桐の繊細な心に亀裂が入る。
「姉上は梧桐様がお嫌いなんですね」
そんな中の妹君、桜華姫の核心を突いた発言が、亀裂が入った梧桐の心を打ち砕いた。
二の姫桜華の発言は、梧桐の痛んだ胸をさらに痛めつける、とっておきの言葉だったことは言うまでもない。
そして……立ち去り際の、梅姚本人による最後の止め。
「馬鹿(ばか)は嫌いです」
「梅姚ちゃぁん~!!」
元近は去っていく梅姚を止めるべく、追いかけていく。