鬼伐桃史譚 英桃
この一の姫梅姚は美しいことこの上ないが、とてつもなく気が強い姫であった。
ああ、梧桐なんとも悲しきや。
梅姚姫への思いはつゆぞ届かぬ。
「それにしても……梅姚様は、また一段とお美しくなられましたなぁ」
すっかり打ちひしがれてしまった梧桐の心を知ってかしら知らずか、元近の家臣のひとりがため息まじりにぽつりと呟いた。
「一の姫梅姚様は女神の如(ごと)き麗(うるわ)しく、凜(りん)としたお姿。流れる艶やかな黒髪に、切れ長な目はなんともお美しゅうございますなあ。まるで梅の花のように麗しい」
「いやいや、二の姫様も負けてはおりますまいぞ」
また別の家臣が口を開いた。
「二の姫桜華様はまるで穢(けが)れを知らない天女といったところでしょうか。透けるような淡褐色の長い髪に柔らかな物腰。大きな目は邪なる全てを見透かしてしまうようだ。春を告げる桜のように儚く、陽だまりのようにあたたかではありませぬか」