鬼伐桃史譚 英桃
ざざん、ざざん。
寄せては返す、さざ波の音に耳を澄ませば、波の音に混じり、少女のか細い歌声が、どこからとも無く聞こえてくる。
その声は寂々(じゃくじゃく)としており、どこか恐怖心を煽る歌だった。
――人間によりしつくられた、我らの父。
――その人間によって我らの父は。
――幽閉されるは無常。
――非情。
――我らの行く場所どこにある。
――我らは混沌をさまよい歩く。
少女の寂々たる歌声は、百鬼島に響き渡る。
少女はいったいどうやって登ったのか。一際高い崖の上に、海を見下ろすようにして座していた。
しばらくする内に、歌う少女の背後から、おどろおどろしい漆黒の煙が生まれた。
少女の歌は、なおも止まない。
――ならばこの地は我らの。
――国へと変えてしまいましょう。
歌い終えるや否や、漆黒の煙は形を無し、やがて人型へと変貌していく。