鬼伐桃史譚 英桃
「時は来た。わたしのかわいい坊やたち……」
人型のそれが言う。
声は老婆のようだ。嗄(しわが)れていて、聞き取りにくいものだった。
「失われた御方の体を取り戻しに行きましょう」
老婆のような声をしたそれは、そこまで言うと、ついに変貌を遂げた。
霧の中から現れたのは、ひとりの女だった。年は三十ほどにも見えるし、四十にも見える。見方によって顔が変わる。腰まである長い髪は白髪で、頭部には二本の鋭い角が生えている。肌は青白く、血が通っているふうには見えない。目の下には真っ黒な隈(くま)があり、唇はまるで鮮血を啜ったかのような赤をしていた。その赤い唇からは時折、ちろちろと舌が飛び出す。その様はまるで毒蛇のようだ。
女は人型をしているものの、けっして人とは言い難い姿をしていた。
霧から出てきたのは女だけではなかった。女に続き、もう二体も姿を現した。