鬼伐桃史譚 英桃
辺り一面が紅蓮の炎と化し、立ち込めている煙が充満する。柱が崩れゆく音に入り交じり、人びとの悲鳴が飛び交っていた。
骨まで焼かれるような熱が彼らを襲う。
周囲に渦巻くのは、恐怖と混沌。ただそれのみであった。
広い屋敷の中だ。逃げ惑う者は多く、しかも炎上する煙に巻かれ、周囲は閉ざされる。視界は定かではない。それでも皆は城外へ逃げようと必死だった。
「出口じゃ、出口じゃ!!」
丑(うし※北北東)の方角。
立ち込める煙の息苦しさが徐々に薄れ、夜気が息づくのを感じた一人の下男(げなん)が喜々とした声で言う。皆はそれに続き、燃え盛る炎の中を走る。そこにいる誰しもが助かったと胸を撫で下ろした。
しかし、ほっとしたのも束の間。喜々とした声はすぐに消え、悲壮感漂う悲鳴が周囲を包んだ。