鬼伐桃史譚 英桃
第六話・不安を振り切って
ゆらゆらと体が揺れる。まるで水面を漂うようだ。
どのくらいそうしていただろうか、小半時のような気もするし、一時だったような気もする。
桜華(おうか)はふと、目を覚ました。
狐色の天井に、十畳ほどの広い座敷だ。そこは見慣れた屋敷で、夏になると暑い日差しを避けるためによく遊びに来ていた。
ここは蘇芳(すおう)の別所だ。
木戸を開ければ、緑の景色が広がる庭には、桜華が好きな夾竹桃(ちょうちくとう)の花木が植えられており、桃の花に似た、桃色の花を咲かせるのだ。
ではなぜ、自分はこの別所にいるのだろうか。
陽は高いというのに床で横になっているのはなぜだろうか。
しかしその疑問は、隣の座敷から聞こえてきた見知った声によって解消されることとなる。
「そうか」
隣の座敷からは父、元近(もとちか)の静かな声を聞いた。