鬼伐桃史譚 英桃
桜華は不作法だと思いながらも自分がいる座敷と、父元近がいる座敷を隔てている襖をほんの僅かに開けた。
広々とした座敷には元近の隣に座している母のかぐやと、元近が頼りにしている梧桐(ごどう)の三人が、なにやら密談をしているようだ。桜華は息をするのも忘れ、聞き耳を立てる。
「そうかそうか。梧桐殿が百鬼島(ひゃっきじま)へ行ってくださるか」
「はっ。鬼に攫(さら)われた梅姚(ばいよう)姫は、この命にかえましても、私めが必ず救い出してみせまする」
――百鬼島。
――攫われた梅姚姫。
さて、その言葉で何やら引っかかることがあったような気がする。
桜華は三人の言葉を一語一句取り違う事のないよう、さらに耳を傾ける。
「いやいや、そなたならば百人力――いや、千人力じゃ。そうじゃ。無事梅姚を連れ戻すことができたならば、なんでも好きな褒美(ほうび)をやろうではないか」