鬼伐桃史譚 英桃

「ここから先は、貴方には一度も口にしていない真実です。よくお聞きなさい」



 母の言葉で張り詰めた空気がさらに増す。英桃は膝に乗った反物を握りしめた。


 菊乃は息を吐き出し、呼吸を整えると静かに話し出した。



 ――今より十六年前。とてつもなく巨大で邪悪な鬼があらわれました。鬼は、怨恨(えんこん)。妬(ねた)み。恐怖といったそれら人間の負の感情によって生まれます。


 それは太古の昔より運命づけられた人間の試練だと私はそう考えております。ですがそれは通常での話。

 十六年前に出現した鬼は尋常(じんじょう)ではありませんでした。


 そこまで言うと、菊乃は一度口を閉ざした。

 菊乃から発せられる緊張感がより大きく感じられる。

 そして菊乃はふたたび口を開く。




 その鬼は増幅する人間の心を食らい、あまりに強大になりすぎたのです。


< 66 / 94 >

この作品をシェア

pagetop