鬼伐桃史譚 英桃

 一度はお断りした話でしたが、けれども元近様は諦められませんでした。彼は武士で、しかも尊(とうと)い身の上でありながらも頭を下げ、土下座してまで旦那(だんな)様に頼まれたのです。


 たとえ相手が自分よりも目下の者であっても頼み事をする時は上も下もない。その元近様の心意気が、木犀様はお気に召したようでした。


 そしてこの一件を承諾することは、元近様の――如いては蘇芳家に関わるすべての人びとと、木犀様の生きる道すべてを決められてしまうことになるのです。


 それというのも、鬼を退治する手段はある方法を除いてひとつしかなかったのです。

 その方法とは――蘇芳様のお子、一の姫様と二の姫様を媒介に大鬼の上半身と下半身を封印するということだったのです。

 人に鬼を宿らせる。それは如何(いか)なる時でもけっして行ってはいけない術。禁忌の術です。その術者は命の危険を伴うものでした。


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