鬼伐桃史譚 英桃

 元近様はたいそう悩まれておりました。それはそうでしょう。可愛い我が子を生贄(いけにえ)同然にするのです。血の通った人間にそのようなことができるはずがありません。

 子を生け贄にすることで、鬼の手からこの世が救われる。しかしそれは仮染めの平和。鬼の力が強まれば、彼らはまた復活を遂げ、この世を混乱へと誘う。

 そして我が子は鬼に殺されてしまうのですから――。


 けれども、元近様は、我が子を鬼の贄とすることを決断されたのです。

 それは彼にとって苦渋(くじゅう)の決断だったでしょう。そして木犀様もまた、お覚悟を決められた瞬間でした。


 木犀様は、十六という年月が鬼を封印できる期間だと告げられました。その間に腕の立つものを集め、鬼を斬るようにと申せられました。


「――――」


 そこまで菊乃が話した後、彼女の視線は英桃を見据えていた。


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