鬼伐桃史譚 英桃
「では、行って参ります」
帷子(かたびら)を羽織り、背中に大太刀を差した英桃は、勝手口で母に別れを告げた。
「母は、いつもあなたの無事を想っております」
菊乃は笹で包んだおにぎりを、英桃に手渡す。彼女の目が赤く見えるのは気のせいではないだろう。
英桃は、また菊乃が知らないところで涙を流していただろうことを知った。
「はい。オレも母上のことをいつも想います」
そして十六年間、育ててくれた母に一礼すると背を向け、生まれ育った家と里に別れを告げ、旅立つのであった。
―第二章・完―