残 ―zan―
もう一人の男は高木、と名乗った。同じように、僕たちは笑ってよろしくと言う。

僕たちだけの秘密の空間が壊れる音がした。僕も知人も内心は同じことを思っていただろう。せっかく、人がいない場所を見つけたのに壊れてしまった。僕たちと店主の3人だけだった、世界がいつもとは違う空気を漂わせた。

「はい、お待ちどうさま!」

店主がラーメンを出す。いつもとは違う中で食べるいつもと同じラーメンは変わらず美味しかった。

「うんめぇ!!!」

隣で佐々木が叫ぶ。佐々木たちは興奮したように次々と美味しいと口にする。店主は笑ってお礼を言っている。佐々木たちが興奮するのと反比例するように僕たちは黙りながらラーメンを啜っていた。

気分は下がる一方だったが、店主が言ってたように良い肉が入ったからか、スープはいつも以上に美味かった。

店主は微笑んでいた。

そのとき僕は、店主の微笑の意味を汲み取れずにいた。
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