忍び寄るモノ
「今日はみなさんに悲しいお知らせがあります」
いつもの校長先生の挨拶よりも落ち着いた声に体育館はシーンと静まりかえって息をする音が聞こえそうなくらい。
「――三年生の荒木恵美さんが今日亡くなった状態で発見されました」
ざわっと広がる生徒達の動揺に教頭先生が「静かに」って言うけど、それで落ち着けるほど軽い内容じゃなくて。
まわりの声ではっきり分からないけど私も口から声が出てしまったと思う。
荒木先輩は髪を明るい茶色に染めていつもお化粧バッチリで流行に敏感な人。
髪の色や化粧のことで先生と言い合っているのはよく見かけたけど、噂話を教えてくれたり街で会っても声をかけてくれてた。
派手な印象はあったけど私はそんなに悪い印象がなくて。
「色々と調べるために校内に警察の方がいることになりますが、みなさんは勉強に集中するようにして下さい」
校長先生の言い方だと校舎の中で見つかったんだ……。
入学して間もなくから私は色々な話を聞いたり調べたりしてきたけど、本当に誰かが怪我をしたり直接被害にあった人を知らない。
だから荒木先輩が亡くなったというニュースはテレビの中の遠い話みたいに感じてしまう。
テストが始まる日の前に会った先輩の顔を思い浮かべて、私は夢をみているような気持ちで先生の話を聞いていた。