忍び寄るモノ

「職員室前にいた時から気づいてますよね?」

顔を上げて真っ直ぐ松嶋さんを見る岡本君。

松嶋さんは立ち上がったままで岡本君を見下ろすようにして部屋の空気がピンと張ったような気がする。

黙って二人の様子を見ていると松嶋さんがふうっと息を吐いた。

「確かに全く疑っていないと言えば嘘になるな」

「どうして何も聞かないんですか」

「一言で答えるなら証拠がないからだ。他の左利きの生徒も同じ。恥ずかしながら犯人の姿がつかめなくてな。捕まえられれば不安をはらせてやれるんだが……」

松嶋さんはそこで話を終わらせて私達のほうに歩いて来ると「家まで送っていこう」と言う。

それから扉に向かって歩いて勢いよく扉を開けた。

「岡本君……」

「──ああ、今行くよ」

じっと動かない岡本君を声をおさえて呼べば岡本君は難しい顔をしていたけど今度こそ立ち上がって歩く。

私は岡本君が横を通り過ぎて先に歩くのを待って後ろから着いていった。


***


岡本君は松嶋さんに送られて先に帰って行き、少し後から私は奈々ちゃんを送って戻ってきた頼成さんに連れられて通学路を歩く。

今日は普段通りに部活があるし放課後すぐじゃないから近くを歩く生徒はいなくて、私は頼成さんと話しながら歩いていた。

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