忍び寄るモノ
岡本君が保健室に入るのを確かに見たし中から声も聞いた。
だけど保健室の中に岡本君の姿がなくて私は自分の心臓が緊張からドキドキと速く鳴るのを感じながら先生の様子をうかがう。
先生は優しい手つきで私の足首に貼ってあった湿布をはがして新しい湿布を貼ってくれる。
湿布の上からテープを貼り、昨日私が使わせてもらったハサミを右手で持ってチョキンと音をたてて綺麗にテープを切っていく。
「あれ……?」
「どうしたの?」
「そのハサミってよく切れるんですか? 私が昨日使わせてもらった時は上手く切れなくて……」
「──そうだったの」
私がそう言うと葉山先生のハサミを持つ手が一瞬ピタッと止まる。
だけど気のせいかなと思うくらい短い間のことで先生はもう一カ所テープを貼って切ってくれた。
「気のせいじゃないかしら? 先生はこうして使えているし」
「そう、ですね……」
何だろう。いつもの葉山先生のはずなのに何だかいつもと違うような気がして落ち着かない。
視線をあちこちに動かしていると放課後なのにまだ閉められているベッドのカーテンに気づいて私は先生のほうを見た。
「──はい。おしまい」
「ありがとうございます。──あの、先生。一つ聞きたいことがあるんですけど……」