忍び寄るモノ
「何かしら」
「ベッドに誰か休んでいるんですか?」
私は先生をじっと見ながら椅子から立ち上がって聞く。
先生はベッドのほうへと視線を向けていくとまるで嬉しくてどうしようもないと言うような笑顔を浮かべた。
「ええ。大事な人が休んでいるの」
はずんでいるような声に先生の嬉しさが感じとれる。
でもそれは具合の悪い人に向けられるものとは全然思えないような表情で保健の先生としてはイメージできないものだった。
「その人の名前を聞いてもいいですか……?」
私がゆっくりとした口調で聞くと私のほうを向いた先生は笑みを深めた唇を震わせる。
「そうねぇ、あなたになら教えてあげてもいいわ──どうせ殺すんだし」
「な……っ!?」
最後の言葉で声のトーンを低くした先生が一歩一歩近づいてくる。
誰か呼ばなきゃ!
「──ぐっ……!?」
叫ぼうと思って息を吸いこむ。
だけどそれは声になる前に何かで口を塞がれて止められてしまう。
「残念だったな」
「っ!」
後ろから体をおさえられて、耳の近くで聞こえた声に私は頭が混乱していく。
苦しさから浮かぶ涙をそのままに前にいる葉山先生を睨むように見れば先生はうっとりしたように笑った。