忍び寄るモノ
「ビックリした? そうよね。まさか私が持っていたなんて思いもしなかったでしょう?」
クスクスと笑いながら葉山先生は入り口近くにラジカセを置いてボタンを押す。
スピーカーから流れてきたのは安田君の声と似ている柴田さんの声。
先生は頬に両手をあててまるで恋する女の子のように楽しそうな声をあげた。
「素敵でしょう? 柴田君の声。安田君に会った時は柴田君が乗り移っているのかと思ったわ」
ラジカセの近くをしきりに歩き始めた先生は何かの曲を鼻歌で歌い始め、ふいに止めると私達を見てにいっと口端をつり上げる。
その表情に私は思わず後ろ手にされている手に力がこもった。
「荒木さんには手を焼いたわ。だけどあの子の目が彼に似ていたから許してあげたの」
「──何が許してあげたのだよ……。あんたは柴田って人に似てた先輩と響也を殺しただけだろ!!」
岡本君が最初は絞り出すように、後から叫ぶように先生に言葉をぶつける。
だけど先生は目をパチパチさせてさも分からないといったような表情で首を傾げてみせた。
「どうして怒るの? これは必要なことなのよ? 柴田君が戻ってくるんだから!」
両手を上げてその場で踊るように回り始める先生。
どう考えても話が通じそうになくて私はどうすればいいか必死に頭を働かせる。