忍び寄るモノ

「早く死んで──!」

「っ!」

私と岡本君の間を割って入るように向かってきた先生の攻撃を何とか避ける。

すると先生は耳がキーンとするような叫び声をあげて壁にすがりついた。

「ごめんね柴田君……! ああ、こんなに顔に傷がついて……」

私達が避けたら先生はそのまま壁に貼られていた写真を切ってしまったようで何枚かの写真をなでて嘆き始める。

その時先生の向こう側にいる岡本君と目が合って彼は入り口へと視線を動かした後に頷いた。

私も声を出さずに頷いて、ゆっくりゆっくり入り口のほうへと歩いていく。

届いた、そう思った時、少し後ろから岡本君の「折笠さん!」と呼ぶ声が聞こえて振り返った。

目の前には包丁を振り上げる先生がいてまるでスローモーションみたいだなと他人事のように思う。

「弟のところに送ってあげるわ……!」

そんなことまで知ってるんだ……。

妙に感心しながらどうしようと思った。

──その時。

ノイズのような音が聞こえて先生の動きが止まる。

聞き間違いかと思ったけれどその音は何度も断続的に聞こえ、音がする先にあるのは壊れているはずのラジカセ。

先生は私を襲うのを止め、包丁を持ったままラジカセに走り寄った。

「今のうちにドアを開けよう……っ」

先生の気がそれている隙に急ぎ足で私のところまできた岡本君がドアのノブを両手でなんとか回す。

だけどガチャガチャと音がしてもドアはほんの少ししか開いてくれない。

ドアノブとドアの横にある手すりに鎖がまわしてかけられていて、鎖の穴には外れないように南京錠がかけられている。

「クソッ、開かない……っ」

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