男なんていらないッ

3日後、美香は康介の店にいた。


うだるような暑さ、東京は32度の真夏日。
暑さに弱い美香は、昼間は一歩も外に出ず、夕方5時きっかりに家を出た。


システム復旧後、気が付いたことは、顧客リストがハードディスクから消えていた。

正確には、「見失った」と言ったほうが正しいのかもしれない。
おそらくハードディスクのどこかには、ある。

しかし、見つけられなかった。


そのために、受注のたびに顧客情報を紙面から読み取らなければならず、その面倒臭さに、受注を一旦停止して、顧客リストの登録作業をすることにした。

スタッフの女性3名と美香で、丸2日間もかかる作業だった。


(パソコンなんて信用できないってことだ。やっぱり最後には紙が一番だわ)


改めて、大切なデータは紙でとっておくべきだと確信した。




事の一部始終を康介に話す美香に、康介は興味深そうに質問したり大きく頷いたりしていた。



「やっぱり、ここで飲むビールが一番うまいワ」


カウンター越しに立つ康介は、優しく笑う。


いつものように、二杯目からはウイスキーをクラッシュで。何も言わなくても出してくれる康介は、職業上のこともあり、美香の嗜好を理解していた。


「で、盛り上がったの?飲み会は」


美香が話題を変えようと質問した。



「うん、そこそこね。」

康介はワイングラスを拭きながら、目を伏せたまま応える。


「そこそこ?」


「うーん。ま、そんなモンでしょう。初対面同士が集まれば。どうしたって、バカ騒ぎにはならないでしょ」


「ふーん」


「・・・美香があのOLの子たちのノリについていけるかどうか、微妙だな、とは感じた」


「ちょっとォ、どういうこと?」


「いや、お前、オッサン化してるから」


ハハハと笑う康介を、美香は思いっきり睨みつけた。
< 3 / 8 >

この作品をシェア

pagetop