男なんていらないッ
3日後、美香は康介の店にいた。
うだるような暑さ、東京は32度の真夏日。
暑さに弱い美香は、昼間は一歩も外に出ず、夕方5時きっかりに家を出た。
システム復旧後、気が付いたことは、顧客リストがハードディスクから消えていた。
正確には、「見失った」と言ったほうが正しいのかもしれない。
おそらくハードディスクのどこかには、ある。
しかし、見つけられなかった。
そのために、受注のたびに顧客情報を紙面から読み取らなければならず、その面倒臭さに、受注を一旦停止して、顧客リストの登録作業をすることにした。
スタッフの女性3名と美香で、丸2日間もかかる作業だった。
(パソコンなんて信用できないってことだ。やっぱり最後には紙が一番だわ)
改めて、大切なデータは紙でとっておくべきだと確信した。
事の一部始終を康介に話す美香に、康介は興味深そうに質問したり大きく頷いたりしていた。
「やっぱり、ここで飲むビールが一番うまいワ」
カウンター越しに立つ康介は、優しく笑う。
いつものように、二杯目からはウイスキーをクラッシュで。何も言わなくても出してくれる康介は、職業上のこともあり、美香の嗜好を理解していた。
「で、盛り上がったの?飲み会は」
美香が話題を変えようと質問した。
「うん、そこそこね。」
康介はワイングラスを拭きながら、目を伏せたまま応える。
「そこそこ?」
「うーん。ま、そんなモンでしょう。初対面同士が集まれば。どうしたって、バカ騒ぎにはならないでしょ」
「ふーん」
「・・・美香があのOLの子たちのノリについていけるかどうか、微妙だな、とは感じた」
「ちょっとォ、どういうこと?」
「いや、お前、オッサン化してるから」
ハハハと笑う康介を、美香は思いっきり睨みつけた。