男なんていらないッ
「おう。どうぞ、座って」


康介が、美香の隣の席に合図した。
ふわりと腰掛けた女性から、甘い香りがする。


思わず、康介を見ると、おしぼりを差し出しながら、言った。


「あ、コイツ。実はこないだの飲み会でトンズラしたヤツ」


2人が美香を見る。



「あ、すみません。この間は急に・・・」


美香は丁寧に頭を下げた。


「いえいえ」


乾杯の時、確かにいた女性だった。



名前は・・・知らない。



自己紹介をする前に、抜けてしまっていたっけ。





美香は、「わざわざ、ありがとね」という康介たちの会話を聞いていた。


何を話して良いのかわからない。


きっと、同じ謝罪の言葉しか出てきそうにない。




「あ、それで、お願いがあるんですけど・・・」


2人の女性のうち、片方が思い切ったように言った。




「慶くんと知り合いだって聞いて・・・。それで・・・あの・・・」


途端にしどろもどろになる女性の代わりに康介が続ける。



「紹介して欲しい?」



「・・・はい」



「誰から聞いたの?」


「あ、あの、飲み会にいた巻さんから・・・」


「ああ、巻さんね」


巻は、美香も知っている。

30歳のお調子者で、テレビの製作関係の仕事をしている人。
康介つながりで、たまにしか会わないから詳しいことは知らないが、以前に会った時には無理矢理口説かれた記憶がある。


(えー。巻さんも飲み会に来てたのか)


その場にいなくて良かったと、少し安堵した。


「っていうか、巻さんも知ってるよ。慶のことは。巻さんに紹介してもらったら?」

康介が言うと、女性二人は顔を見合わせて言った。



「・・・康介さんに紹介してもらえるよ、って・・・」


その言葉を聞いて、康介は、小さくため息をついた。















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