懺悔部屋~脱出法は仲間を傷つけ食べること~
家の主人に一言声をかけ、敷地内へ入る。


塀の外から見たよりもずっと大きな家だ。


瓦屋根の家に広い日本庭園が広がっている。


塀のすぐそばに、その木は生えていた。


「あの猫は、飼っているんですか?」


そう訊ねると、貫禄のある髭を生やした家主は「いいや、野良猫だ」と答えた。


「近所の野良猫が時々うちの庭に入り込むんだが、木に登って下りられなくなったのは初めてだ」


そう言い、困ったように口髭をさする。


「俺も、彼女と一緒に助けてみます」


そう言うと、俺はその木に向かって走った。


子猫は枝の先端部分にいて、今にも落ちてしまいそうだ。


月奈は必死で手を伸ばしているが、その手はなかなか届かない。


「月奈!!」


俺は木の下から月奈の名前を呼んだ。


そんなに親しくない俺が下の名前を呼ぶのは少し抵抗があったが、月奈はクラスメイトたちからそう呼ばれていたから、俺も同じように呼んだ。


「原……正くん?」


月奈は恐る恐る下を向いて俺の名前を呼んだ。


その目にはうっすらと涙が浮かんでいて、俺はハッとした。
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