懺悔部屋~脱出法は仲間を傷つけ食べること~
だけどあいつはどこまでも腰ぬけで、教室の隅から俺たちのやり取りを見ている事しかできなかった。


俺と止める人間は、ここにはいなかった。


「悪いのはあんたじゃない!!」


月奈が俺の下で叫んだ。


その顔には恐怖は見られず、ただ悪を許す事の出来ない頑なな意思だけが存在していた。


なんだよ……それ……。


この状況でなんでまだ俺に刃向うんだよ。


カッターの刃が自分の首に当たってるんだぞ?


死ぬかもしれないんだぞ?


月奈の強い態度に俺は唖然とした。


その時、俺は自分の手が震えている事に気がついたのだ。


今まで他人に刃物を向けて脅した事は何度でもあった。


だけど、人の肌の柔らかさを刃物越しに感じたのは初めてのことだった。


月奈の肌は柔らかく、少し弾力があって、俺の力で簡単に掻っ切る事ができそうだった。


今、俺は月奈の命を握っている。


その事に俺自身がびびっているのだ。


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