甘党オオカミくん
そんなわけない、と思いつつも仮名くんの手が触れたところから熱がじわりと顔に広がっていくのを感じる。
周りの音は聞こえなくなり、耳に届くのは脈打つ自分の心臓の音だけ。
「あ、の…」
震える唇からわずかに発せられる言葉は空気中に溶けて消えた。
ー私にはとーやがいる。
頭の中で言葉が響く。
そうだよ。
こんなことしてちゃいけない…のに。
そう思うのに、吸い込まれそうな視線に捕らわれて逃げることができない。
「…ふっ、おいしそうだな」
仮名くんが不敵に笑う。
私を見つめる瞳はまるでーー獲物を前にした狼のよう。
普通の獲物なら狼の姿を見ただけで一目散に逃げることだろう。
だけど…
その瞳にたたえられた妖艶な色香がそれを許さない。
胸を打つ鼓動がうるさく騒ぐのは、恐怖からなのか、その瞳のせいなのか。
ーそれはわからない。
動けないでいると、仮名くんの親指が私の唇にそっと触れた。