甘党オオカミくん

その指は唇をすべり、口の端までくるとそっと外された。



「とれた」



そう言うと仮名くんは私から離れた。



「えっ!?」



とれたって…何が?



きょとんとする私を見ながら仮名くんは親指を軽くなめた。



「クリーム。唇についてたから」



く、クリーム!?

そ、そっか。
それを取ってくれてたのね。



「あ、ありがとう」



「どういたしまして」



仮名くんは私のことなど微塵も気にしていないように中庭に目を向けた。

私はその端正な横顔を眺める。


…………それにしても。

…なんてこと考えてたんだろう、私。

普通に考えて初対面の人にキスなんてするわけないじゃん。


自分の考えの恥ずかしさにさらに顔に熱が集まりはじめ、仮名くんの顔を見られない。


うつむいていると、ふいにガサリと紙袋を漁る音がした。



「なあ、これ。今日作ったのか?」



私は仮名くんの声に反射的に顔をあげる。

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