甘党オオカミくん
伊織は私の考えに気付いたのか、任せなさい、というように軽く頷いてから口を開いた。
「ねえ、砂原。愛美は私と帰るんだからいい離してあげてよね」
その言葉にとーやの手が顎から離れ、視線が私から伊織の方に移る。
「愛美はいつも俺と帰ってるんだけど?」
「愛美と話があるの。それに、もういい加減離してあげて。愛美を見てみなよ」
言われて、ちらりととーやは腕の中にいる私に視線を向けた。
目があった瞬間、とーやの瞳が驚いたように見開かれ、背中に回されている腕の力が緩んだ。
ごめんね、とーや。
マフィン渡せなくて。
お菓子作りが苦手な彼女だなんてきっと思ってないよね。
でも聞かれたら私はウソがつけない。
とーやに嫌われたくない。
だから…
今日は一緒に帰れない。
私はとーやの胸を軽く押すようにして離れ、引き寄せられるように伊織のもとに駆け寄る。
「じゃ、愛美はもらってくね~」
伊織はとーやにウインクを飛ばすと私の肩を抱いて教室を後にした。