一人じゃんけん
「――違うよ」

「は?」

 紅子ちゃんの思わぬ言葉に、私は驚愕して声をあげる。

「早く教室戻ろうよっ!」

 紅子ちゃんは友達の腕を掴み、トイレを出ていってしまった。
 私は、暫く呆然としてその場に立ちつくしていた。


 今の何――?
 これが、皆が言ってたこと?
 意味分かんない……返して貰わなきゃ。
 こんなこと、許せないよ。





「菜々未ちゃん!」

 翌日、紅子ちゃんが私を呼んだ。
 昼休みに紅子ちゃんのところへ行こうと思っていた私は、少し驚き。

「何っ?」

 まさか紅子ちゃんから来てくれるなんて……私を避けるかと思ってた。

 私は動揺しつつ、紅子ちゃんに話し掛ける。

 もしかして、昨日のこと謝ってくれる――

「コンパス貸してっ!」

 …………

「――はあぁ!?」

 私の大声に皆が注目するが、そんなこと関係ない。

「?」

 きょとんと私を見つめる紅子ちゃんに、堪忍袋の尾が切れた。

「何平然と言ってるの!? CD返してよ!」

「あぁ、あれ――まだ早紀に貸してるから。ごめんね?」

 もう限界。

「ふざけんな!!」

 紅子ちゃんがビクッと肩を震わしたが、私は構わず叫ぶ。

「人に借りたものをまた人に貸すとかどういう神経してんの? しかも貸したままでまた貸してほしい? 図々しいにも程がある!!」
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