時空(とき)を越えて KA GU YA【前編】
「驚かせてごめん」
『…ううん』
夢みたい…でも…現実なんだ!
私、精霊の世界へ行けるんだ?
心の準備が出来ないまま
その時は、突然やって来た。
「行くよ!」
そう言うと輝夜は
しっかりと私を腕に抱いて
窓の外へと飛び出した。
そして、翼を大きく広げると
力強く羽ばたき
一気に上昇した。
遠ざかる景色
風を切る音
恐怖と興奮で
気を失いそうになった。
思わず輝夜にしがみつくと
ギュッと抱きしめてくれた。
「好きだよ」
ゴォォーという風の音と共に
微かに優しい声が聞こえた。
気が付けば、漆黒の静寂。
どれくらい経ったんだろう
時間の感覚が全くなかった。
暫くすると、漆黒の闇に
柔らかな光が見えた。
輝夜はさらにスピードを上げ
光の方向へと向かった。
「俺達の世界は
月ではなく、地球と月の間に
あるんだ」
「愛舞の暮らす世界とは
時空が違うから
これから、その時空を
越えなきゃならない」
「少し苦しいかもしれないけど
俺に身を任せて欲しい」
『うん、輝夜が一緒なら平気』
「ありがとう」
そう言うと輝夜は、片翼で私を覆い
光の中へと進入した。
……っん……あ…っ……
耳鳴りがして
眩暈がする…
息苦しい…
後どれくらい続くんだろう?
気が遠くなりそうな感覚に襲われ
全身の力が抜けそうになった時
視界が急に明るくなった。
「愛舞、着いたよ」