櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
◆
時はあっという間に過ぎていく。
今日も、ほら。
気づけば空に闇が広がり、
眩い星屑たちが我先にと自らの存在を主張し始める。
「......美しいわ。ねえ、シェイラもそう思うでしょ?」
「...そうだね」
王宮のある一室。
大きすぎるくらいのバルコニーに立ち、夜空を見上げる二人の影。
肩を寄せあうその姿はとても中睦まじい。
「君は、夜が好きなのか?」
シェイラは不意に、隣で空を見上げるアネルマに問う。
二人で夜を過ごす時は決まって、一度も欠かすことなく夜の空を見つめているからだ。
「...好きというか...美しいと、思わない?この宝石たちが散りばめられた闇夜は、他の何とも変え難いほどに美しいと」
フィンス家は王族のなかでも唯一、闇の魔力を扱う一族だ。
だからこそ、無意識のうちに闇に魅了されるのかもしれない。
闇に魅入られ、闇に恋した一族。
それがフィンステルニス家なのだ。
ふと、アネルマがシェイラの方を振り向く。
真っ赤なルージュに彩られた口元が妖艶に弧を描く。
「でもまあ、好きと言えば好きかも
だって、」
夜の光は、
女の子を普段よりずっと綺麗に、そして...大胆にさせてくれるから
月光の真下
触れ合った唇がゆっくりと離れる。
長い睫毛に縁どられた大きな瞳がすっと細められ、アネルマは意地悪そうに微笑んだ。