櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「...ごめん、君を不安にさせるつもりはなかったんだ」
シェイラはアネルマを引き寄せ、力強く抱きしめる。
「アニは充分魅力的だよ。俺が知る中で、誰よりも。俺にはもったいないくらい」
アネルマは腕の中で胸に顔を埋め、特に何を言うこともなくされるがまま。
「...覚悟がないのは俺の方だ。俺は君に愛してもらえるほどの男なのか、兄上の跡目を継げるような人間なのか...やっぱりどうしてもそんなことばかり考えてしまう...」
「シェイラ...」
苦しげに自身の中に溜まる不安を吐き出すシェイラ。そんな彼をアネルマは見上げる。
そして、おもむろに髪をかき上げた。
それが彼女の魔法の合図とも知らずに。
「シェイラ、こっちを向いて」
黄金の瞳を逸らすことなく見つめるアネルマの瞳。
「貴方は素晴らしい人よ。伝説の王子だもの」
徐々に空間を支配し始める不思議な香り。
「貴方は何も間違ってない、自分を否定してはダメ」
濃くなっていくその香りにつられて、シェイラの黄金の瞳が少しずつ陰り始める。
「シェイラ、貴方は《真の王》となるの。人の上に立つべき人なのよ」
大丈夫
「私だけを見て。私だけを、信じて。そうすれば、私があなたを導ける。不安になることなんてないわ」
それはまるで暗示のように、シェイラの思考を包んで、
いつしか彼は色をなくす
「シェイラ教えて...私の事、好き?」
感情が消えた暗い瞳が、アネルマの顔を映す。
操られた彼の答えは一つしか存在しない。
それでいい。
「好きだよ、君が
俺が愛しているのは、アネルマただ一人だけだ」
欲しいのはその言葉一つだけ
たった、それだけ...