櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
Ⅶ*小さな王子と人魚伝説
*
朝日が上ったばかりの市場。
早い時間にもかかわらず、人でごった返すその中を、颯爽と歩く二人の男。
二人がどちらも、下町ではめったに見ないほどの端整なイケメンだったからだろう。
道行く人々の視線が一斉に彼らに集まる。
そんな視線など一切気にすることなく、彼らは必要な物資食料を揃えていった。
「食料は、このくらいでいいか」
「いいんじゃないのか。それよかそっちの荷物貸せ。俺が持つ」
「おう、ありがとう」
そんな会話を交わしながら、彼らは歩く。
市場では頬を桃色に染めた女性たちが顔を見合わせ、朝とは思えないテンションで騒ぎまくる。
それからしばらくの間、二人のイケメンの存在が噂になったことは言うまでもない。
◇
「...ルミア、今日も部屋から出てこないのかな...」
「......たぶんな」
「もう二日だろ?せめて何か食べてもらわないと...ただでさえ、国を出てから元気がなかったんだ。これが続けば体に支障が出る」
「...ほんと、お前はルミアの事になったら饒舌になるね、リュカ」
「そう言うお前も、ずっと寝てねーくせによ」
「.........」
「.........」
食材などの荷物を抱えたイーリスとリュカは、無言で見つめ合い、
「「......はあ」」
そして、盛大な溜息をついた。
ジンノがアイルドール王国を去ってから丸二日。
その日から今日にいたるまで、ルミアは部屋に閉じこもったまま。
外からどんなに声をかけようと返事も返さない。食事もとらない。
おそらく内側から結界術系の魔法をかけているのだろう。様子をうかがう事すらできなければ、リュカやイーリスでさえ中に入る術がない。
そのことに二人は頭を悩ませていたのだった。