櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
「ジンノにさ、俺がお前でも同じことするって言ってたけど、あれ本気なのか?」
荷物を抱えなおしながら、リュカはイーリスに尋ねる。
「ああ、本気だよ」
「それが間違ってるってわかっててもか?」
「うん」
そこに迷いや躊躇いはない。
「所詮、俺とジンノは同じ穴の狢だってわけだ」
そう言ってイーリスはいつもの穏やかな笑顔を浮かべる。
「俺には、理解できないな」とリュカは渋い顔。
「別に分かろうとしなくていいさ。お前はそのままでいい。その方がルミアも救われる」
納得いかないと言いたげだったが、そこは口をつぐむ。
リュカが弾かれたように顔をあげた。
「...おい、こんな話してる場合じゃなくなったぞ」
「!?」
「......誰かいる」
目の色を変えた二人は走り出す。ルミアの残る宿に向かって。
部屋を離れるにあたって、二人は結界術と式神を部屋の入口に配備していた。
内側からルミア自身も結界術をかけているが、もし万が一、自分たちがいない間にルミア自身が外に出たり外部から敵が来たりするのを防ぐために。
その式神が反応しているのだ。
急ぐ二人。
焦る心境に対し、状況は悪い方向へと進む。
「!?おいおい...結界まで破られたぞ」
イーリスが硬い表情でそう呟く。
フェルダンの特殊部隊の中でも結界術が得意なネロ程とまではいかないが、そう簡単に解けるような作りにしたつもりはない。
ようやく宿の前に到着し、荷物を入口に放ってリュカたちは階段を駆け上がる。
上っていくにつれて、足元に冷気漂い始めた。
(まさか...!!)
青ざめる二人の脳裏によぎった最悪の事態。
そしてそれが現実のものへ。
たどり着いたその先で、
ルミアの部屋の扉が開いていた。