櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ




「ルミッ!!!」




 叫びながら冷気の充満する部屋へと突入する。



 すると視界に入ったのはルミアの寝ていたであろうベットのわきに立つ人影。



 真っ黒なローブに包まれたその姿。



 それを目にするや否や、リュカが瞬発的に動き出す。



「貴様っ!!」



〈アクア〉ランスファイト



 何処からか取り出した刀の柄のようなものの先に突如現れる水の刀身。



 それを片手にリュカが眼で追えぬほどの速さで突っ込む。



 が、




「...術式〈ジーゲル〉」



「!?」



 振り向いたその人物はそう呟き手早く印を結ぶと、リュカとの間に結界を張った。



 それにぶつかった刀身は、若干形を崩しながらも結界に食い込んだ。そのひび割れから結界が音を立てて割れ、崩れる。



 その先から飛び出す無数のナイフ。



 ゾクッと背筋に寒気が駆け抜ける。



 今のリュカは、目は見えないものの、魔力を感じ取ることで人の位置や動きを感知している。



 目の前の謎の人物、それと飛び出してくるナイフから発せられる異質な魔力を感じ取り、リュカは飛びのいた。



(ッ!?ただのナイフじゃない!!)



 本能的にそう感じたのだ。

 

「リュカ、下がれ!!」



〈フェルス〉ウルツァイトクリフ 



 イーリスの魔法により、リュカとナイフの間に鈍く輝く鉱物の壁が出現し、身を守る。



 じりじりと間合いを詰めるイーリスとリュカ。



 三人の間にピンと張る緊張の糸。



(何だこいつ...ただの魔法使いじゃない)


(嫌な気だ...あのナイフからも同じ気がする...何者だ)



 二人が詮索する中、謎の人物はゆっくりと振り向いた。



「...流石ですね...私の結界を破ったのは貴方が初めてです。あのナイフも、その刀で受けなかったところは良いですね。それを止めたそちらの壁も、大変興味深い...」



 
 ルビーよりも深い赤い色の瞳



 目の淵からに頬にかけて施された妖艶な刺青



 フードをとると同時にはらりと広がる紫がかった艶やかな黒髪



 そう。その姿は、ジンノが見つけ出した占い術師。



「怖がらないでください。私の名はローグ...クダン家の者と言った方がいいでしょうか」



「クダン...あのクダンか?占星術師一族の...」



 『クダン』と言う名を聞き表情が変わるイーリス。リュカはと言えば、それを聞いても特に思い当たる節がないようで、警戒体制が和らぐことはない。



「矛を収めてください。私は貴方方の敵ではありません...ルミア様の護衛として来ました」



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