櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
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ルミアとジンノは朝食を食べ終え、ゆったりと食後のティータイムをむかえていた。
ティータイムと言っても、ジンノがコーヒーを飲むだけで、ルミアはただボーッと特に代わり映えもしない我が家を見て回るだけ。
ジンノは昔、顔に似合わず甘いものが好きだった。
それは今も同じなようで、以前と同じようにミルクたっぷりの、もはやコーヒーとは言えないようなものを手渡した時、ジンノは目を丸くしてそれをじっと見つめていた。
「あ、もしかして、兄さんはブラックの方が良かった?」
もう十年前から好みは変わっていたかもしれないと気付き、慌ててそう言うとジンノは静かに首を横に振ってそれを飲んだ。
どうやら、ルミアがいない間、色んな人にコーヒーを注いでもらっていたが何故だかその全員がジンノはブラックだと勝手に思い込んでいたらしく。
せっかくしてもらったのにわざわざ言うことも出来ず、我慢してブラックばかりを飲んでいたそうだ。
「...ん、やっぱ旨いな」
自分好みの甘さに調節されたそれにホッと頬を緩めるジンノ。
それを見てルミアも、やっぱりジンノは甘党だと再確認した。
そして、二人は各々ティータイムを満喫していった。
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「そう言えば、」
突然放たれたジンノのその声にルミアは、ふと視線を向ける。
妙に深刻そうな顔をするジンノに、ルミアが眉を寄せた。
「どうかしたの、兄さん」
そう尋ねると、少し考えた素振りを見せ、重そうな口を開いた。
「...ルミア、オヤジ達のことなんだが...」
その内容に、思わずはっと息を呑む。
ルミアにとって両親はあまりいいものではない。
十年以上前、ルミアは母に『いらない』と見限られた。
父と母の不仲の原因をつくたのがルミアだったから。
理由は今でも良く分からないが、日に日に悪化していくそれをルミアはどうすることも出来ず、幼心にはただ父や母の前に姿を表さないように努力することしか思いつかなかった。
外に出るのは学校に行くときだけ。その時も両親に極力顔を見られないように自室の窓から向っていたものだ。
他の時間は自分の部屋にこもりっぱなしだった。
ジンノが毎日のように食事を持ってきてくれなければ、生きていなかったかもしれない。
ジンノはそんなルミアの為にいくつもの本を持ってきては一緒に読み、孤独な時間を共に過ごしてくれた。
その本はいつしか、ルミアの部屋の壁一面を埋めるほどにまで増えていった。