櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
そこにようやく、テオドアとカリスが到着する。
「間に合ったか...はぁ、はぁ」
「......やっとついた」
目の前の状況に困惑しながらも、瞬時に把握していく。
そこは流石、軍の隊長を任せられるだけあるというところか。
明らかに周りから一目置かれているその二人を目に、ルミアは怪訝な表情を浮かべていた。
「......誰なの、あの2人」
そう尋ねるとローグが密かに耳打ちする。
「アイルドール国王軍の軍隊長兼第一部隊隊長カリス・ぜクレスと、第二部隊隊長テオドア・ぜクレス。
どちらも若くしてこの国で有望視されているぜクレス家の嫡子です」
ローグのその説明に、それまで一切口を聞かなかったリュカが、ふと顔を上げた。
(テオドア......カリス......)
目の見えないリュカは魔力だけを感じ取る。
他の衛兵や騎士達とは一線を画す、大きな魔力を抱えた二つの塊がゆっくりとこちらに近づいていた。
(......間違いない...)
握りしめた拳がブルりと震える。
この国に入る時既に覚悟はしていた。
いつか会うことになるのだろうと。
脳内にずっと閉じ込めていた古い記憶が堰を切ったように溢れ出す。
怖くはない。
だが、体はそんな意志に反して小刻みに震え続けていた。
「リュカ!!」
「......っ!...ルミ」
ルミアがリュカの名を呼ぶ。
震える拳にそっと触れる。
「貴方はリュカ、私たちの兄弟よ。大丈夫、貴方はもう一人じゃない」
その声は優しくて、包み込むように温かい。
イーリスもまた、その大きな手でリュカの頭を撫でた。
(...そうだ、今は一人じゃない
幼少期に受けたキズを長い時間をかけて繋ぎ、癒してくれた
一人ぼっちだった俺に、居場所をくれた彼らがいる。
大丈夫
俺の居場所はここにある──)
リュカは前を向く。
いつの間にか震えは止まっていた。