櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
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リュカが湖を通り抜け、道が塞がってしまったあとも、四尾の青龍は消えることはなかった。
彼らがルミア達の後を追わぬようにたちふさがる。
結局、アイルドールの騎士たちはジンノとの約束を果たせなかった。
呆然と立ち尽くすテオドアと、泣き崩れるカリス。
クロノワは恐る恐る二人に尋ねる。
「...隊長、彼はいったい何者だったのですか?何故、王族しか使えない魔法を...」
問われたテオドアは、いつになく悲しげな表情で、彼が去っていった方をじっと見つめる。
そしてぽつりと、呟いた
「あれは...我らゼクレス家の、最後の希望だった...」と―――
◆
湖の光もささぬ深い深い底の底。
魔水の水に触れた者が連れて行かれるその場所には
それはそれは美しい、一人の人魚の住む入江がある。
大小異なる眩い球が辺りにいくつも散らばる天国のような場所
そこへ辿り着いたものはその人魚にある質問をされる。
『そなたは何を願う』と
願いを言うと、人魚は微笑みながら答えるのだ。
『そなたの願い確かに聞き入れた、わらわが叶えて進ぜよう』
驚くことに人魚は何でも願いを叶えてくれるという。
たどり着いた者たちは皆、両手を上げて喜んだ。
しかし
その後に続く言葉が
彼らを天国から地獄へ叩き落す。
『願いを叶えてあげる。そのかわり
―――そなたの心...“命”をおくれ 』
辺りを埋め尽くす眩い球は人の命。
アイルドールの童話と教えは正しかった。
人魚、その名をベリルという。
彼女は今、新たな命を手に、先ほどやって来た珍客を思い返していた。
『主の為なら、命をも投げ出す...馬鹿な人間もいるものよの...』
命をおくれ
そう言えば誰もが嫌だと泣き喚く。
それが普通だった。
なのにその人間は、一切の迷いなく笑いながら答えたのだ。
『そんなものでいいのなら、貴女に全てくれてやる』
その深い濃紺の瞳が強く輝く。
その姿が今も鮮明に脳裏に焼き付いていた。
『...馬鹿だが、面白いおなごだったなあ』
ベリルは笑い、手の中の球をころころと回して遊んぶ。
その球は光を幾重にも反射させる氷の球だった。