櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
Ⅷ*朔の夜
*
――――フェルダン=ルシャ王都
夜も暮れ始めたころ
そこにある、街で一番の大きさを誇る荘厳な教会でこの日、盛大な式が行われていた。
「...健康な時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も、愛し合い、敬いなぐさめ助けて、変わることなく愛することを誓いますか」
神父のその言葉に続くように、二人の人が「誓います」と答える。
「あなた方は自分自身をお互いに捧げますか」
「はい、捧げます」
「では、指輪の交換を...」
二人は向かい合い、それぞれの指輪を手にする。
真っ黒なベールと黒のウェディングドレスに身を包んだアネルマ。
赤い布地に黄金の刺繍が盛大に施された袴のような形の正装服を着たセレシェイラ。
両者の指に互いの指輪が交換される。
フェルダンではこの指輪に契約魔法というを物がかけられている。
契約魔法とは婚姻を結ぶ二人の血液を指輪に用いる特殊な魔法だ。
しかし指輪を交換するだけでは何も起こらない。
これは最後に行われる誓いのキスで二人の間に簡単には切ることのできない血の契約を結ぶ。
王族の結婚式でしか行われないものだった。
「ではベールをあげてください」
セレシェイラはゆっくりと、アネルマのベールを上げていく。
ベールの下からは、真っ赤なルージュでより一層艶めかしく仕上げたアネルマが顔を上げる。
ゆっくりと顔を近づけていく二人。
その様子をかたずをのんで見守る、セレシェイラの兄であり現国王であるシルベスターと補佐官たち、そしてアネルマの父親であり王族分家フィンステルニス一族当主のグロル。その他にも、大臣、貴族、騎士など多くの人が参列していた。
そんなたくさんの人々の視線が集まる中、二人はそっと、誓いのキスを交わした。
その瞬間、わああっと歓声が上がる。
桜吹雪が舞い、皆が二人の結婚を祝福した。
アネルマは頬を桃色に染め可愛らしく笑い、セレシェイラもまたそれに応えるように微笑む。
だれもがこの上ない幸せな結婚式だと思った。
――この時すでに国の崩壊を知らせる鐘は鳴り響いていた。