櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ





「兄さん...」



ジンノがそんなふうに思っていたなんて。



思ってもいない事実にルミアはただただ驚いていた。



優秀なジンノは両親に好かれていたし、ジンノもまた両親を好いていたと思っていたのに。



「もう、無理に思い出す必要ないんじゃないか?
お前が苦しいだけだろう」



いつも、自分の事を一番に気にかけてくれる優しい兄に、ルミアの心はほんわかと温かくなる。



ジンノの言う通り、無理して思い出す必要もないのかもしれない。



もしかしたら、これから生きていくうちに自然と思い出せるかもしれないのだから。



「うん...ありがとう、兄さん」



背後から椅子に座るジンノの首元に腕を回す。



肩に顎をかけ頭を寄せ合う。



「私、兄さんの妹で本当に良かった」



今ルミアに出来る精一杯の感謝の言葉。



それを聞くジンノは、それは幸せそうに自身に回された白く細い腕に優しく触れ、寄せられたルミアの頬に軽くキスをする。



「俺も...お前が俺の妹で、本当に良かった
ルミアが俺の傍で笑っていてくれるだけで、他の何もいらなくなる。誰よりも幸せだ」



まるで、恋人に囁くような甘い言葉、《魔王》と恐れられるジンノから発せられるとは思えない言葉の数々がとめどなく溢れる。



白く柔らかい髪に顔を埋めるジンノ。



「いい匂いだな...」



魔法使いだけが分かる魔力の香り。



魔力高いルミアのそれはとろける様に甘く上品で、何よりこの上なく落ち着いた。



それはルミアも同じで。



自分のものとは正反対の黒い髪に、長く白い髪が絡む。



(兄さんの匂い、好き...)



ほっとする香りが身体全部を満たしていく。



静かで、けれど穏やかな二人だけの時間はそうして、ゆっくりと過ぎていった。




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