櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ
ピエロの足元から瞬く間に湧き出る黒々とした水のようなもの。
それはピエロ中心に波のように王都全体を飲み込んでいく。
足元を覆う真っ黒な闇に衛兵たちは戸惑いを隠せない。
そんな衛兵たちをしり目に、ピエロは両手を闇の広がる地面につける。
「出てこい、冥界の使者共」
その言葉と共に、その闇のいたるところから何十何百という数の男たちが頭から姿を現し始めた。
それはラヴェンデル地区に向かっていたラウルとウィズの元にも。
「おいおい、何だよこれ!!」
足元に押し寄せる黒い不可思議な闇にテンパるラウル。
しかしウィズは立ち止り、目を瞠った。
「これは...!!」
「何なに、なんか知ってんの!?ってうわ!!何か地面から人出てきたよ!!!?気持ちワル!!」
「珍しい魔法だ...冥府の入口を開く魔法だよ。闇の魔法の中でもかなり高度なもの。しかもここまで入り口を大きく広くつくったものを見るのは初めてだ...」
テンパるラウルに対し、地面に座り込み黙々と考察をするウィズ。対象的な二人だが特殊部隊では、よくバディを組む心を許せる仲だ。
「ラウル」
「ん!?何?うげっコッチ来んな!!アホ!!」
「オーリングを呼ぼう、この闇は今完全に王都を包んでいる。闇が広がった場所からは泉のようにそいつらが湧き出てくる。俺とお前が分かれて戦ってもカバーできん。王都全体を守るには最低三人の人員が必要だ...おいラウルお前聞いてんのか」
ウィズが真面目に分析結果を語っているというのに、それを必死に聞こうとしているラウルにばかり真っ黒闇から出てきた男たちが寄ってくる。
それに耐えかねたラウルはとうとうきれた。
「だああーーー!!しつっこいわ!!!!!離れんかい!ボケェ!!」
〈エレキ〉シンティラ・トゥオーノ
その瞬間、ラウルの体が爆発のように電気を放電させ、辺りにいた冥府の使者たちには大きな落雷が落ちた。
「はあ、はあ、はぁ」
ようやく身軽になったラウルは肩で息をしながらウィズを見た。
「はぁ、はぁ、倒してよかったんだよな!!」
「...倒した後に聞くなよ」
ウィズは呆れたように笑う。
やっぱり、何だかんだで仲のいい2人だった。